背景
欧州渡航情報認証制度(ETIAS)は、シェンゲン圏に属すEU諸国を訪れる旅行者に渡航認証を付与する制度です。対外国境を旅行者が越えるかどうかの最終決定は、EU加盟国のうち最初の到着国となる国に委ねられます。ETIASが事前に旅行者に対しスクリーニングを実施することにより、旅行者はシェンゲン圏内にビザなしで渡航することができる一方で、加盟国は安全保障上の脅威、非正規滞在の懸念や公衆衛生上のリスクと見なされた旅行者に対し渡航認証を拒否することができます。シェンゲン圏の対外国境から入国するためには、ビザを保有しない旅行者は有効な渡航文書およびETIAS認証の両方を得る必要があります。
仕組み
EU加盟国の国境管理当局は、ビザ免除対象国から欧州に入国する旅行者に関する情報をほとんど有していません。ETIASは、旅行者に対して安全上のスクリーニングとリスクアセスメントを実施することによりこのような情報格差を埋めるだけでなく、シェンゲン圏の国境警備を強化する重要なシステムとなります。
施行の時期
ETIASの規制は、2018年7月5日に欧州議会により決議されました。同年9月5日に、規制導入がEU理事会により正式に承認され、9月12日に二名の共同立法者により公式に認められました。同規制は、2018年10月9日に発効されました。現在、ETIASの法制度は欧州委員会の委任・実施規則に即し完成に向けて構築されています。ETIASの運用開始時期は2022年末との見通しが立っています。
ETIASの施行により影響を受ける旅行者の数
現在、世界の60ヶ国が、EUへの入国に際するビザ免除対象国に指定されています。

EUへの通過地点となる公式な対外国境はおよそ1885箇所に及び、これらの対外国境で処理されたEU入国の数は2014年だけでも5億6500万件に上ると言われています。この件数は、2025年には8億8700万件にまで膨れ上がることが予想されています。また、この渡航件数のうち3分の2はEU市民により構成され、EUの国境を越える非EU市民のうちおよそ3分の1はビザ免除対象国からの渡航者になることが予測されています。
EUに対しビザ免除の可否に関する交渉を行っている国々のステータスもまた、ETIAS渡航認証を申請する数多くの旅行者に、将来的に影響を及ぼす可能性があります。
よくある質問
Frontexは、ETIAS中央ユニットの設置と運営の責任を負います。年中無休24時間ベースで運営されるETIAS中央ユニットの重要なタスクには次のようなものがあります。
– 自動化プロセスにおいてチェックされたデータベースの中に情報の不一致がある場合など、必要に応じて渡航認証申請における旅行者の身分証明を検証する
– ETIASのスクリーニング規則に含まれる特定のリスク指標の定義づけ、テスト、実施、評価、および改訂を行う
– 基本的な権利、プライバシーに関する規則、データ保護の領域に及ぼす影響に関する項目を中心に、申請書類の処理およびETIASのスクリーニング規則の実施に対し定期的な監査を実施する
– 申請書ファイルに保存されたデータと記録されたデータが正確で最新のものであるかどうかを確認する
– ETIASに関する情報を一般に公開する
– キャリア・アシスタンス・センターの設立と運営、および旅行者へのサポートの提供を行う
ETIASは、ETIAS中央ユニット、ETIAS情報システム、ETIAS国家ユニットにより構成されます。
Frontex(欧州国境沿岸警備機関)は、旅行者のためのキャリア・アシスタンス・センターやヘルプデスクを含むETIAS中央ユニット(上記参照)の運営に関する責任を負います。
Eu-LISAは、ETIAS情報システムの構築と技術管理に関する責任を負います。これには、次に挙げる内容が含まれます。
– 申請書類を処理する中央システム
– 中央システムと各国のインフラストラクチャを繋げる、各加盟国共通の国営インターフェース
– 中央システムと各国共通の国営インターフェース間の安全な通信インフラストラクチャ
– 一般向けウェブサイト、およびモバイルデバイス向けのモバイルアプリ
– 申請者が利用するEメールサービスや様々なツール(アカウントサービス、検証ツール、および通常のデータ保持期間を超えるデータ保持に対する同意を提供または撤回するためのツールなど)
– 旅行者が有効なETIAS認証を保持しているかどうかをキャリアが確認するためのキャリアゲートウェイ
加盟国が設立するETIAS国家ユニットは、主に次の内容に対し責任を負います。
– ETIAS中央ユニットから転送される申請書類に対し、申請書類のファイルに含まれるデータと自動化プロセスにおいてチェックされる1つまたは複数のデータベースに含まれるデータを比較し、それらの情報が一致するかどうかの確認、あるいはスクリーニング規則の条件を満たしているかどうかの確認を行いリスクアセスメントを実施する
– 申請を受理するか拒否するかの最終判断を下す
– 申請者に申し立ての手続きに関する情報を提供する
– ETIASのウォッチリストを欧州警察組織と協力して管理する
欧州警察組織は、主に次の内容に対し責任を負います。
– 申請書類に関する相談を受けた際にEU加盟国に意見を提供する
– ETIASのウォッチリストをEU加盟国と協力して管理する
ETIASは、旅行者により提供された申請書類に含まれる個人情報を様々なデータベースを照合してクロスチェックを行います。特定の申請書類に関し何らかの問題や疑惑が生じた場合は、さらに詳しく検証が行われ、さらに手作業での処理が行われます。
ETIASが最初にデータ照合を行うデータベースは次のものです。
● 既存のEU情報システム:
– シェンゲン情報システム(SIS)
– ビザ情報システム(VIS)
– 欧州警察組織のデータ
● 将来的に導入されるEU情報システム:
– 出入国システム(EES)
– 最新のヨーロッパ指紋データベース
● インターポール(国際刑事警察機構)のデータベース:
– インターポールのパスポート盗難・紛失管理データベース(SLTD)
– インターポールのTDAWNデータベース
● 専用のETIASウォッチリストと特定のリスク指標
ETIASは、シンプル且つ迅速で旅行者の利用しやすいシステムの実現を目指しています。オンライン上での申請書類の作成に要する時間はおよそ10分以下となっており、申請者のうち95%は24時間以内に自動承認を受け取ります。
何らかの理由で申請書類に対しFrontexの管理するETIAS中央ユニットが手作業での処理を実施する必要が生じた場合は、続いてETIAS国家ユニットが確認作業を行うため、処理に通常より時間を要する場合があります。稀に、申請者に対し詳しい情報提供が求められたり、余分な手続きの段階を踏む必要が生じる場合もあります。旅行者は、96時間以内に最終的な回答または追加書類の提出要請を受理します。
シェンゲン圏の国境検問所で任務にあたる国境警備隊が旅行者の書類データをデジタルで確認して出入国システムに登録し、ETIASにクエリがトリガーされます。旅行者が有効な渡航認証を保持している場合、入国に関するその他の条件が満たされている限り、その旅行者はそのまま旅行を続けることができます。旅行者が有効なETIAS渡航認証を保持していない場合、国境警備隊はその旅行者の入国を拒否し、その際に入国拒否がなされた記録が出入国システムに記録されます。
ETIASが運営を開始するまでに、Frontexは約250人の専任スタッフを年中無休24時間体制の中央ユニットに雇用することが予想されています。Eu-LISAは40名のスタッフの雇用を予定しています。加盟国には、それぞれのETIAS国家ユニットに十分な人数のスタッフを雇用する責任が課せられます。
18歳以下の未成年と70歳以上の高齢者を除き、すべての旅行者は申請費を支払うことが義務付けられています。いったん渡航認証を受理すると、その認証は、出入国の回数に制限なく3年間有効となります。ただし、渡航認証の発行条件が満たされなくなった場合、認証が取り消されたり、無効になる場合があります。
ETIAS情報システム、ETIAS中央ユニット、及びETIAS国家ユニットの運営・管理コストは、旅行者により支払われる申請費の収益のみを財源として賄われます。
ETIASは、シェンゲン圏への渡航を予定するビザ免除対象国の国籍を持つ旅行者にのみ適用されます。EU加盟国に国籍を持つ旅行者、およびシェンゲン圏に属す国に国籍を持つ旅行者にはETIAS認証の提示は課せられません。
● 例:ノルウェーはEU加盟国ではないもののシェンゲン圏の国であるため、ポルトガル経由でブラジルからノルウェーに帰国するノルウェー国籍の旅行者の場合、ETIAS認証は必要ではありません。
EUのシェンゲン圏に入国する際にビザの保持を免除されている対象国の国籍保持者は、シェンゲンの対外国境からの出入国を希望する場合にのみ、ETIASによる認証を得る必要があります。
● 例:オーストラリア国籍保持者がスイスに渡航する場合、スイスはEU加盟国ではないものの、シェンゲン圏の加盟国であるため、ETIASによる認証が必要となります。一方で、オーストラリア国籍保持者がアイルランドに渡航する場合は、アイルランドはEU加盟国であるもののシェンゲン圏に属さないため、ETIASによる認証は必要ありません。
ETIASの規制下では、シェンゲン圏に属す国家領域に入国するための渡航認証の取得を希望する個人は、身元、渡航書類、学歴、職業などの基本的な情報を提供することが義務づけられている他、以前紛争地域に滞在していたか、犯罪歴があるかどうかなどに関する質問への回答が求められます。
ETIASには、すでに多数の国々で利用されているシステムとの類似点があります。米国(電子渡航認証システム:ESTA)、カナダ(電子渡航認証:eTA)、オーストラリア(電子渡航許可:ETA)が、その例として挙げられます。
ETIASは運送業界に影響を及ぼします。
● 各キャリア(航空会社、船舶業者、国際的なバス企業)は、ビザ免除対象国である第三国の国籍保持者がシェンゲン圏へ渡航する際に、ETIASによる認証を保持しているかどうかを搭乗前に確認する組織的な作業を実施しなければならなくなります。
● EUの現状の規則の下でも、国境で旅行者の入国が拒否された場合、キャリアがその責任を問われます。この場合、入国拒否を受けた旅行者を本国送還するための費用に加え、誤処理に対し課される罰金などの支払いに対する責任もキャリアが負うことになります。
● ETIASの導入開始後には、ETIASによる認証を保持しない旅行者を搭乗させた場合、各キャリアはその責任を問われることになります。
認証が却下された場合、ETIAS国家ユニットは申請者にその旨を報告し、適用される国内法、必要な当局の連絡先に関する情報、及び申請書の却下に対しての申し立てを行う手続きとそれらに関連する期限についての情報を提供する義務があります。過去に渡航認証を却下された場合、その事実により新たな申請が自動的に却下されることはありません。
ETIASの制度には、申請者の個人データの公正且つ適切な処理を確実なものとするために必要なあらゆる安全策が含まれています。EU加盟国の法執行機関およびユーロポールは、厳しく制限された条件下でのみ、テロリストによる攻撃やその他の深刻な犯罪行為の防止と特定を目的に、ETIASの申請書ファイルに含まれる情報へのアクセスを許可されます。
ETIASのシステムに記録された個人データは、渡航認証の有効期間のみ、または認証の却下、取り消し、無効化などの決定が下された場合はその判断時から5年間にわたり保管されます。
さらに、Frontexの基本的権利に関する相談フォーラム(Consultative Forum on Fundamental Rights)の代表者、欧州データ保護監督官、欧州データ保護委員会、EU基本権庁、およびFrontexの基本権役員は、申請書類の処理が及ぼす影響や基本権に関するスクリーニングの規則の評価、そしてETIASスクリーニング理事会への助言の提供を実施する独立諮問機関であるETIAS基本権ガイダンス理事会に参加します。
ETIASの申請書類はすべて、次のデータベースと照合されます:ETIAS中央システム、シェンゲン情報システム(SIS)、出入国システム(EES)、ビザ情報システム(VIS)、ヨーロッパ指紋データベース、ユーロポールのデータ、インターポールのパスポート盗難・紛失管理データベース(SLTD)、TDAWNデータベース、およびETIASウォッチリスト。
申請書の中にこれらのデータベースに一致する箇所があった場合、ETIAS中央ユニットは手作業で申請書を処理し、申請者の身元に関する不明点を12時間以内に調査します。データベースとの一致内容がETIAS中央ユニットにより誤認であると判断された場合は自動処理が続行されますが、一致内容が正確なものであると確認された場合は申請書ファイルは適切なEU加盟国に転送されて処理が行われます。手作業で申請書の処理が行われた後は、適切なEU加盟国ETIAS国家ユニットが渡航認証を発行するか却下するかの判断を下します。
ETIASの制度 – まとめ
欧州委員会 プレスリリース
欧州委員会 メモ
欧州議会 プレスリリース
欧州議会 ブリーフィング